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福島地方裁判所 昭和25年(ワ)139号 判決

原告 島貫平助

被告 本田宥元

一、主  文

被告は別紙<省略>第一目録記載の物件につき原告に対する賃借権を有していないことを確認する。

被告は原告に対し福島県信夫郡飯坂町字赤川端六番の四鉱泉地二合五勺を引き渡せ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告は、別紙第一目録記載の物件につき、原告に対する賃借権を有していないことを確認する。被告は、原告に対し右物件を引き渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

別紙第一目録記載の物件は、原告の所有であるが、原告は、昭和二十年四月三日同目録中福島県信夫郡字赤川端四番地上にあつた原告所有の家屋を被告に売り渡し、次いで、昭和二十一年一月二十四日右物件を別紙第二目録記載の物件とともに、賃料を一ケ年金六百円毎月二十八日払、期間を昭和二十一年一月一日から昭和四十年十二月三十一日までと定めて被告に賃貸した。その際原告は被告と、「賃借人は、賃貸人の承諾を得ないで、借地上に工作物その他の設備をしないこと、」との特約を結び、なお、温泉が大きな経済的価値を有することにかんがみ、被告をして、みだりに第三者に対しゆう出温泉を継続的に供給させないようにするため「賃借人は、賃貸人の承諾を得ないで、本件鉱泉を訴外佐藤元以外の者に転貸しないこと、」との特約を結んだ。

ところが被告は、その後、右家屋を佐藤元に売り渡し、原告の承諾を得て賃借物のすべてを同人に転貸したにもかかわらず、赤川端六番の四の鉱泉地(別紙第一目録(七))に引湯用の動力モーター小屋を築造し、これにモーターポンプをすえ、被告肩書住居地に貯湯タンクを設備する一方昭和二十五年一月二十八日には楽天地こと岡田貞一と、昭和二十五年二月ごろには喜久屋こと橋本勇助と更に、昭和二十五年九月ごろには山楽こと稲村ツギ外八名とそれぞれゆう出温泉の供給契約を結び、同月以降右各施設を使用して右鉱泉地からわき出る湯を同訴外人等に分湯している。

そこで原告は、被告に対し右分湯行為を取り止めるように要請したが、被告はこれに応じないので本訴において前記賃貸借契約を解除する。

なお又被告は、昭和二十四年十二月三十日右分湯について予かじめ原告の承諾を得るため原告に対し、改めて別紙第一目録記載の物件につき賃貸借契約を結んで欲しいと申し入れて来たが、折合がつかず物別になつた。

従つて、いずれにせよ被告は現在別紙第一目録記載の物件につき賃借権を有していないのにもかかわらずその存在を争うので、原告は、賃借権の不存在確認を求めるとともに、所有権に基ずき、右物件の引渡を求めるため本訴に及んだものである。と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、原告の主張事実中、別紙第一目録記載の物件が、原告の所有であること、被告が、昭和二十年四月三日原告主張の家屋を買い受け、昭和二十一年一月二十四日原告からその主張のような賃料及び期間を定めて、右物件を別紙第二目録記載の物件とともに賃借したこと、その際、「賃借人は、賃貸人の承諾を得ないで、(一) 借地上に工作物その他の設備をしないこと、(二) 鉱泉を訴外佐藤元以外の者に転貸しないこと、」との特約があつたこと及び被告が、右家屋を佐藤元に売り渡し、原告の承諾を得て賃借物のすべてを同人に転貸した後、赤川端六番の四の鉱泉地にモーター小屋を築造し、モーターポンプをすえ、被告肩書住居地に貯湯タンクを設け、右設備を使用して、右鉱泉地からわき出る湯を原告主張の訴外人等に分湯していることはいずれもこれを認めるが、右(二)の特約が、原告主張のような趣旨であることを否認し、その余の事実を争う。

被告は、昭和二十四年十二月三十日原告と別紙第一目録記載の物件につき、改めて賃貸借契約を結び、現在この契約による賃借権を有している。すなわち、被告は、岡田貞一とともにかねて、訴外大伏茂と分湯契約を結び、それぞれの住居内へ引湯をしていたが、昭和二十四年末ごろこれをとめられた。そこで被告は、岡田からの依頼もあり、赤川端六番の四の鉱泉地から各住居内へ引湯したいと思い、昭和二十四年十二月三十日原告と種々折衝した。当時別紙第二目録記載の物件は、すでに農地改革によつて買収されたり、或は原告から他へ売り渡されたりしていたので、別紙第一目録記載の物件について改めて賃貸借契約を結ぶこととなり、同日(一)鉱泉地の賃料を一ケ年金一万円とし、土地の賃料は追つてきめる。(二)原告は、被告がモーター小屋を築造し、モーターポンプを設置し、これから貯湯タンクに引湯した温泉を被告や岡田貞一その他の者に利用させる、との約定ができ、ここに新たな賃貸借契約が成立したのである。

仮に、右契約が成立していないとしても、被告の岡田等に対する分湯行為は、湯口におけるそれと異なり、鉱泉源の自然ゆう出量に影響を及ぼさないから、原告主張の約定に反するものではなく、従つて、原告の契約解除の意思表示は、その効力を生ずるものではない。と述べた。<立証省略>

三、理  由

別紙第一目録記載の物件が、原告の所有であることは、当事者間に争がない。

被告は、昭和二十四年十二月三十日かねて原告から賃借していた右物件につき、改めて賃貸借契約を結び、現在この契約による賃借権を有していると主張するので、まずこの点について考えるに、原告が、昭和二十一年一月二十四日右物件を別紙第二目録記載の物件とともに賃料を一ケ年金六百円毎月二十八日払、期間を昭和二十一年一月一日から昭和四十年十二月三十一日まで、との定で被告に賃貸したことは当事者間に争なく、その後、おそくとも昭和二十四年末ころまでに別紙第二目録記載の物件が、農地改革によつて買収されたり、或は、原告から第三者へ売り渡されたりしたことは、本件弁論の全趣旨により明らかであり、又原被告各本人尋問の結果に本件弁論の全趣旨を総合すると、被告と岡田貞一は、かねて、訴外伊勢屋旅館と分湯契約を結び、各自の住居へ引湯していたが、昭和二十四年十月ごろ、これを差し止められたので、両名相談の結果、当時佐藤元が専ら利用していた赤川端六番の四の鉱泉地からわき出る湯を各自の家へ引こうと考え、被告は、その諒解を求めるため昭和二十四年十二月三十日原告宅を訪ずれ、原告に対し、右の事情を明かし、又賃借物に変動があつたことでもあるから、改めて別紙第一目録記載の物件について賃貸借契約を結んで欲しいと申し入れた。原告は、これに対し、新たな賃貸借契約を結ぶことについてほぼ内諾し、又、鉱泉地の賃料を一ケ年金一万円とすることについて、原被告の意見の一致をみ、越えて、昭和二十五年一月末ごろ原被告は、電話で話し合い、土地の賃料を一ケ年金六千円とすることを互に了承したことが認められる。右事実によると、あたかも被告の前記主張にそうようであるが、更に、原告本人尋問の結果に甲第一号証を加えると、昭和二十四年十二月三十日の折衝では、結局、いずれ年が明けてから、更に詳細を検討し、その上で契約証書を取り交わそう、ということで別れたことが認められるのであつて、彼此考え合わせると昭和二十四年十二月三十日の話合は、新たな賃貸借契約を結ぶための下話程度と解すべきであり、又、昭和二十五年一月末ごろの折衝もその延長にすぎないものとみるのを相当とする。

次に、前示昭和二十一年一月二十四日の契約に基ずく賃借権(但し、賃借物が第一目録記載の物件に減縮したことは、前に認定したとおりである。)の存否について判断する。

右契約に際し、「賃借人は、賃貸人の承諾を得ないで、(一) 借地上に工作物その他の設備をしないこと、(二) 鉱泉を訴外佐藤元以外の者に転貸しないこと、」との特約があつたことは、当事者間に争がない。

右(二)の特約が、果して原告の主張するように、ゆう出温泉をみだりに第三者へ継続的に供給しないことを約したものであるかどうかについて考えるに、本件鉱泉地の賃貸借が、ゆう出湯を温泉附旅館の営業用に利用することを目的として結ばれたことは、本件弁論の全趣旨により明らかであり、従つて、右特約における鉱泉の転貸を鉱泉地そのものの転貸と考えることは、むしろ無意味である、被告のゆう出湯の利用方法を限定する点にその趣旨があるものと解すべきである。ところで、一定量のゆう出温泉の継続的供給契約を結ぶに当り、ゆう出湯を固定物件視して、同契約に貸借なる名称を用い、又、引湯用の鉄管の数によつてゆう出湯の供給量を限定することは、世上しばしば見受けるところであり、これにさきに認定した事実、すなわち、被告が、岡田とともに、当時佐藤元がもつぱら利用していた赤川端六番の四の鉱泉地からゆう出湯を自宅へ引こうと考えた際、これが承諾を求めに原告宅を訪ずれ、種々折衝した事実とを考え合わせると、反証のない限り、右特約における鉱泉の転貸とは、新たに引湯用の鉄管をふやし、或は特殊の設備を施して、ゆう出湯を継続的に他人に供給する場合をも意味するものと解するのが相当である。

被告が、赤川端六番の四の鉱泉地にモーター小屋を築造し、これにモーターポンプをすえ、又、被告肩書住居地に貯湯タンクを設け、これらの設備を利用して右鉱泉地からわき出る湯を岡田貞一外九名に分湯していることは、被告の認めるところであるが、その経過ないし、具体的状況をみるに、前記賃貸借に先き立ち、被告が、原告から買い受けた原告主張の家屋を昭和二十一年十二月ごろ佐藤元に売り渡し、賃借物のすべてを同人に転貸したことは、日時の点を除き、当事者間に争なく、右日時の点は、被告本人の供述によつてこれを認めることができ、又、被告が、昭和二十四年十二月三十日赤川端六番の四の鉱泉地を利用したいと思い、原告と折衝したことはさきに認定したとおりである。しかるに、甲第一号証被告本人尋問の結果、検証の結果及び本件弁論の全趣旨を総合すると、被告は、原告との右折衝後、岡田とともに、右鉱泉地と各自宅との間に引湯用のパイプを敷設し、同鉱泉地から引湯をはじめた、ところが、佐藤元が、更にパイプを一本ふやして引湯したところ、被告や岡田のところへ湯がこなくなつた、そこで三者が相談した結果、被告が、温泉のゆう出量をふやす措置をとることになり、昭和二十五年二月ごろその工事に着手した。昭和二十五年六月ごろから原被告間に本件賃貸借ないし右工事について紛争が起きたが、被告は、委細構わずに右工事を進行し、昭和二十五年八月中に前記モーター小屋の築造、五キロワツトモーターポンプのすえつけ、貯湯タンクの設置、引湯用バルブの敷設等一切の工事を完了した、次いで、被告は、昭和二十五年九月一日原告の承諾を得ることなく稲村ツギ外八名とゆう出温泉の継続的供給契約を結び、同訴外人等や岡田の各自宅と、貯湯タンクとの間にパイプを敷設し、同日以降右鉱泉地からわき出る湯を一旦モーター小屋内に造つた貯湯溝にため、更に、これをモーターポンプによつて貯湯タンクに導き入れた上右訴外人等に供給していることを認めることができる。右認定に反する証拠はない。

被告の右行為は、前記特約に反することもち論であり、且つ、それは、あたかも固定物の賃貸借における無断転貸と、その規範的性質を同じくするものと解することができるから、民法第六百十二条第二項の規定を類推し、貸主たる原告は、催告なくして賃貸借契約を解除し得るものというべく、しかもその範囲は、これまで認定してきた事実を考えると本件賃貸借の全部に及ぶことができるものと解するのが相当である。原告が、昭和二十五年九月二十六日被告に到達した本件訴状で被告に対し、本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をしたことは記録上明らかであるから、本件賃貸借は、同日終了したものといわなければならない。

最後に、原告は、所有権に基ずき別紙第一目録記載の物件の引渡を求めるので案ずるに、同物件が原告の所有であることは、冒頭認定のとおりであり、又、被告が、同物件中赤川端六番の四の鉱泉地を占有していることは、前に認定した事実からして明らかである。従つて被告は、右鉱泉地を原告に引き渡すべき義務があるものといわなければならない。しかるに、右鉱泉地以外の物件は、佐藤元が、被告から転借していることは、原告の認めるところであり、従つて、反証のない限り、同物件は、現在佐藤がこれを占有しているものというほかはない。かような場合、賃借人が、賃貸借契約上の返還義務の内容として転借人から賃借物を取り上げて賃貸人に返還すべき義務を負うのは別とし、現実に占有していない者が、所有権に基ずく返還請求に応ずべきいわれはない。従つて、前記鉱泉地以外の物件の返還請求はその理由がない。

そうすると、原告の本訴請求中賃借権の不存在確認及び赤川端六番の四の鉱泉地の返還を求める部分は、正当として、これを認容すべきであるが、その余の部分は、失当として、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十二条但書の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 西川正世 篠原弘志)

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